「Owltec.」結城卓也と熊谷富士喜、20年来の関係性で実現した「sost. jiyugaoka」。 — 後編 —
「Owltec.」結城卓也と熊谷富士喜、20年来の関係性で実現した「sost. jiyugaoka」。 — 後編 —
「sost.」のオーナーであり、「kearny」のデザイナーの熊谷富士喜と「sost.」にまつわるクリエイターを迎えた対談コンテンツ。今回は、熊谷とは20年来の親交がある「Owltec.」の結城卓也さんを迎えて、「sost. jiyugaoka」ができるまでのお話を伺いました。
— 今回、改めて結城さんに新店舗を依頼したのにはどんなきっかけがあったのですか？
熊谷 この物件を見つけた時、ふと一番最初の「feets」の店を思い出したんです。奥まっていて、分かりづらい立地など、どこか雰囲気が似ていて。結城さんは今ではvisvimの店舗をやっていたり、かなり実績もあるの方なので、ここでまた一緒にできたら楽しいんじゃないかなって思って声をかけさせていただきました。
— この場所はもともと何があったんですか？
熊谷 以前はこの建物全部が中華料理屋で、ここは厨房スペースだったみたいです。
結城 最初はよくある空きテナントみたいな感じで何もなかったんだよね。だから、とにかく引き算をしていこうと壊してみたら、あれよあれよといろんなものが出てきたんです。
熊谷 もともと中華屋だからダクトもすごい多くて、油まみれのダクトが埋まっていたり、箒とか古い中華のレシピとかが貼られたままの柱が出てきたり。文字通りの隠蔽物件だったんです（笑）。
結城 壊しながら「ここはこうやって生かしたい」とか、「これはやっぱりいらない」とか足し引きしていった感じです。
熊谷 今グッズを置いているスペースも本来は壁で埋まっていたんですよ。壊していたら謎のスペースが出てきて、なんだか可愛く見てきちゃって。
— ここは本来なんのスペースだったんでしょうか？
結城 ダムウェーダーという食品を運ぶ小型のエレベーターがついていたので、ここで作った料理を２階に運ぶためのスペースだったんだと思います。
熊谷 下から覗くと２階の床が見えるんですよね。天高が半端ないっていう。本当はここは綺麗に塗りつぶして壁を作って、ストックルームにしようと思っていたんですけど、これは潰しちゃもったいないなと思って後半で方向転換しました。
結城 下地も全部組んでたんですけど、富士喜と２人で全部バラして。終わった頃に職人さんが来たんですけど、「マジで？壊したの？」って驚いてました。
熊谷 本当はアパレルを置くつもりはなかったんですけど、レールを設置したら案外いいサイズ感で。「kearny」や「sost.」のグッズもなんだかんだ増えていたし、結果的にお土産コーナーにぴったりの空間になって気に入っています。
— 壁面がディスプレイウォールになっていたり、細かな工夫がいろいろありますね。
熊谷 ここには本を並べたり、絵を飾ったり、眼鏡ではないものを置きたいなって思っています。入り口のカウンターのところには水道もついているので、コーヒーを出したりもできる。眼鏡を売るためだけの眼鏡屋はもうあるので、ここは違う切り口で興味を持ってもらえる場所にしたいと思っています。
結城 ビールとかも出すのかなって思って一応冷蔵庫用のコンセントも作ったんだよ。
熊谷 去年、ビールを出して大変さが身に染みたので今は出さない予定です。いつでも飲める環境にしちゃうと、毎日飲んじゃって文字通り身を滅ぼすので…（笑）。
— 数年ぶりに一緒にやってみていかがでしたか？
結城 設計から入ることってほとんどしないんですけど、ああでもない、こうでもないって２人でやっていくのは富士喜とだったら面白いんじゃないかなと思ってやりました。
熊谷 こんなに口出して、変更したがったら普通は嫌がられますよね。
結城 それに付き合うのは、富士喜の癖というか、こだわりの強いところを昔から知っているから。僕らは経験や想像で判断することができるけど、実際にやってみないと分からないことも多い。富士喜は富士喜で僕らにはない勘を持っているので、トライアンドエラーしながら進めていくのも面白かったですね。
— 想像通りに作っていくよりも、紆余曲折あることで愛着も湧きそうですね。
熊谷 僕も一応できる限りのお手伝いをさせてもらったので、思い入れは強いです。壁の油を磨いたり、解体のゴミを捨てたり。床のグリッドを磨くのも楽しかったですね。普段は考えたこともなかったけれど、一個一個手で磨くってこんなにも地味で大変な作業だったんだなって。
結城 街を歩いていてもなかなか気づかないよね。
熊谷 ここ数年は、出店や自宅のリフォームが続いていたけれどプロにお任せで完成を待っているばかりだったから、改めてこんなに近くで仕事を見させてもらえたことで感じることは多かったです。やっぱり自分が関わる機会が少ないと愛着も薄れちゃうので。
結城 今回は富士喜の店ということで、かっちりした図面があるわけではないし、変なプレッシャーがなかったから気持ち的にはリラックスしてできました。関わる人数も少なかったし、職人さんたちにも「友達の店です」って最初に伝えるようにしていたから、やりやすかった。
熊谷 こんなに壊して、作って、壊してを繰り返してたら嫌われちゃいますよね。
結城 最初の「feets」を一緒にやった時に、富士喜のそういう癖がなんとなくわかったんです。末っ子気質というか、頼むのが上手いんですよ。富士喜が言うならしょうがないなって自然となっちゃう。看板を先に作っておいたらテンション上がるんじゃないかなとか。
熊谷 あれはめっちゃテンション上がりました。
結城 ああいうのは、大体一番最後なんですよ。
— ネオンの看板はインパクトありますよね。
熊谷 ネオンは最初にリクエストしていたんです。この辺りは夜になると暗くなって分かりづらいので、何か光らせたいなと。あとは福井の素材を入れたいとか、細かなリクエストを色々しています。
結城 福井県産の笏谷石を加工してドアの部分につけました。福井でしか採れない石なので、プロダクトの産地と紐付けられるなと思って。
熊谷 アクセントで使っているステンレスも眼鏡の素材というイメージもあるので入れたいなと思っていて、そういう眼鏡を連想させるディテールというのはテーマのひとつにありました。
結城 あとは、「steef」で使っていた什器とかもうまく組み合わせてるよね。
熊谷 ちょうどクローズのタイミングと重なったので、カウンターやスピーカー、鏡など「steef」で長らく使っていたものを活用しています。あんまり持ってきすぎると移転みたいな見え方になってしまうから、バランスは相談しながら。
結城 カウンターは結構手を入れていて、給排水や電気を通して、左官して…そもそも入り口が斜めになっているから、水平に設置するのも大変だったな。
熊谷 コーヒーとかも淹れやすいように高さもあげてもらってますしね。一見、綺麗に見えるけど内側は結構汚れていて、祐天寺での８年間分の汚れが積み重なっているのもなんだかエモいんですよね。
結城 あとは床かな。もともと厨房だったからめくれたりしていて、一旦全部剥がして。
熊谷 歩いたら割れちゃうくらい、弱かったですよね。あんなの見たことないくらい。ステンレスのグリッドも高さがバラバラだから、細かいチップを入れてフラットになるように調整したりと大変でしたよね。
— 最後に、結城さんのこれからについて教えてください。
結城 会社を大きくしたいとか、なんでも貪欲にやりたいみたいな野望も特になくって、正直分かんないですよね。５年後には違う仕事をしているかもしれないし。
熊谷 確かに。また新しいことを始めてるかもしれないですよね。
結城 なんてね。でも、そのくらい仕事に対してはいつだってまっすぐにやってきて、飽きたから次に行こうと色んなことをやってきたので、どんな可能性もありうるとは思います。きっと今の仕事はやっているとは思うけど、年の半分は日本にいないみたいな生き方もいいなって思うし。
— そうやって変化を続けながらも、つながりが続いているというのはすごくユニークですよね。
熊谷 当時全く想像していなかったですよ、この光景は。そもそも、自分が眼鏡デザイナーになっているとも思ってなかったですからね。
結城 確かに、お互いそうだね。
熊谷 あの頃は目指せ古着屋でしたからね。
結城 僕も当時は古着屋がゴールだと思ってた。とはいえ、店を出したところでゴールってなんなんだろうとも思って。めっちゃ古着が好きなのと、接客が好きはイコールではないなって気づいちゃったんだよね。
熊谷 分かります。僕もやっぱり着る方が楽しいってなっちゃいましたもん。すぐに。
結城 今は内装が好きで仕事をやってるけれど、やっぱりこれで売れたいとも思っていなくて。好きだからこそブレーキがかかるというか。だから、できるだけ現状維持しながら未来に進んでいけたらいいのかなって思っています。
Interior installer：結城卓也
https://owltec.jp/
写真 : 香川賢志
文：市谷未希子
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