kearny ルック制作、これまでと佐渡。— 後編 —
kearny ルック制作、これまでと佐渡。— 後編 —
「sost.」のオーナーであり、「kearny」のデザイナーの熊谷富士喜とスタイリスト・服部昌孝さん、フォトグラファー・赤木雄一さんをお迎えし、「kearny」のルック制作のウラ話を雑談形式でお届け。今回は、ブランドとしても思い入れのあるポートレートシリーズの撮影から、佐渡で撮影した最新ルックについて深掘りしました。
「kearny」のルックを印象づけたポートレートシリーズ
— 2014年からずっと同じチームで撮影をされてきた皆さんですが、それぞれに一番印象的だった撮影はありますか?
熊谷 僕は毎回楽しいんだけど、タフさで思い出すのは海に行ってから青山スタジオで撮った時かな。
服部 台風のやつね。あの日はふざけてたよ。そもそも北に行くって話してたのに、台風がきてるからって海ほたるを渡れなくって、どうしようもないから南下して神奈川で撮ったんだもん。
熊谷 封鎖されてたもんね、海ほたるが。
— よっぽどの台風ですね、それは。
服部 台風の中無理やりフィルムで撮影して、馬鹿だよね。
赤木 海岸で大波うねり倒してたよね。カメラもびしょ濡れ。
服部 さらにそこから青山スタジオ入って、夜中にかけて8、9人撮ってるからね。
— すごいタフな撮影ですね。
赤木 僕は今回の佐渡がナンバーワンになりそうな気はしてるけど、他だとやっぱりポートレートシリーズかな。なかなか今やってるところはないと思うし、面白いよね。プロセスもいいから、毎回割と集中力の高い撮影になってる。
熊谷 パリでの展示会の後に、今後どういうふうに撮っていくかを一緒に考えて、ポートレートに変えたの。ハッセルで撮りましょうって。
— それがこの冊子ですね。これはいつ頃のルックが入っているんですか?
熊谷 これは2015から2017までのポートレート。この後もポートレートは2019年ごろまで撮っているんだけど。確か、赤木くんがトーマス・ルフの生っぽい感じがいいんじゃないって提案してくれた記憶があります。
赤木 全然覚えてないなぁ。なんかタランティーノみたいな写真もあるね。全然トーマス・ルフじゃなくない?(笑)
服部 トーマス・ルフではないね。でも、こうやって見返すとモデルの精度はすごい高いよね。
熊谷 全員素人だもんね。
服部 俺と赤木くんの素人モデルを寄せ集めてるからね。
熊谷 確かに。よくきたよね、みんなスケジュール通りに。
服部 何人かキャンセルもあったんじゃない?いてもリカバリーしたよね、その場で。
熊谷 懐かしいね。またやりたいですけどね。
赤木 やりたいやりたい。これはいい作業。
服部 これ全員ライブだもんね。背景もライブだし、スタイリングもライブだし。
熊谷 モデルの汗とかもリアルに映ってて、そのライブ感がすごく良かったな。
— 当時はワンシーズンどのくらい撮影されていたんですか?
熊谷 基本的には一日で10人。マックス16人くらい撮ったときもあったかな。ずっと顔の寄りだからごまかしが効かない撮影ですよね。それがすごく楽しい。
服部 顔面だからこそ緻密にやらないといろいろバレるじゃん。結構みんなの突発的な力がないと成立しない企画だよね。
赤木 本当に瞬発力が大事。
服部 大喜利だもんね。
熊谷 撮影は旧「feets」の入り口だったしね。あんな超狭いところでよく全部撮ったなぁ。
赤木 でも、あそこだったら駅前だからどこの馬の骨かわからない外国人も来れるというメリットはあったよね。
服部 とりあえず何時に祐天寺に来てくれって伝えればなんとかなるからね。
熊谷 祐天寺でこれ撮りきってるなんて、写真だけ見るとそう思わないですよね。
服部 でも、劣悪だよ(笑)。
赤木 そういうのも好きなんだよね、結局。
熊谷 しかもレンズに映り込むから、絶対にスタッフは黒い服着ようねっていうのに、赤木さんだけなぜか毎回白い服で来るんだよね。
服部 毎回俺の持ってきた黒いTシャツが赤木くんに奪われていく。
赤木 撮影前は家を出る時からエンジンふかしてるから、毎回忘れてきちゃうんだよね。
— 服部さんはいかがですか?
服部 やっぱりポートレートだよね。モデルが彼女とか連れてきたらその子も使っちゃうみたいな。
熊谷 連れてきた子供も撮ったしね。
— 本当にライブですね。
赤木 だから当たってる写真もあれば、外れてる写真も全然あって。そこも愛おしいというか、なんかそんな感じかも。
URL→ PORTRAIT
— 「kearny」のルックはどういうプロセスで話し合って形にされているんですか?
赤木 メガネをビジュアルにするときの話はよく話合った。メガネは一人一個だよねとか、着せ替えってどうなの?というところの話はしていて、多分自分たちのものづくりの考え方でもあるんだけど、ポートレートなんだけど着せ替えてるというのは、成立してないよねって。だから、こんなにたくさんのモデルを呼んで撮影をすることになったんだけど。
服部 着せ替えちゃうとファッションになるからね。結局ファッションやりたいんだけど、ファッションにしたくないというのが大前提にある。
熊谷 確かにそれはあるかも。
傑作の予感。佐渡で撮影した最新ルック
— 最新コレクションのルックについても教えていただきたいのですが、今回のコレクションは石をテーマにデザインされているんですよね?
熊谷 そう、佐渡で拾った石をインスピレーション源にしています。だからこそ、佐渡で撮影したいというのは初めから考えていたんだけど…。
服部 スケジュール的に難しいこともあって佐渡じゃない案も出たんだけど、俺と赤木くんの間で佐渡じゃなきゃ撮れないってなって。佐渡じゃなきゃ何すんのみたいな。それがまとまらなかったから、富士喜を説得してマスト佐渡でってなったんだよね。
— どのように現地で撮影を進めて行かれたんですか?
熊谷 撮影前に二泊三日で赤木さんと僕でロケハンに行って、ロケーションと出演してもらう人にアポを取りました。
赤木 ロケハンの時に飛び込みで役所に行ったら、すごく協力してくれたのよ。本当にゼロベースで行ったんだけど、いろんな人と出会うことができた。
— ビジュアルのテーマはどのように設定されたんですか?
熊谷 デザインのルーツとなっている、石を拾った二ツ亀でも撮影はしているんだけど、佐渡の伝統的な文化を調べて行ったら、おけさや鬼太鼓という太鼓を叩きながら踊るものや、能といった踊りがあって。そこにコンテンポラリーダンスをしている僕の友人を当てて、伝統的な踊りと現代の踊りというのを融合させるような映像を作れたらいいなと。今回は佐渡の文化の影響が大きかったから、デザインのルーツとしてしっかり伝わって欲しいというのがあったんだけど、見方によっては佐渡の観光ムービーになりかねないよね。
赤木 最初から言ってたのよ。どうやってメガネを見せるの?って。
— 確かに。セレクト前のお写真を拝見していると眼鏡が写っているカットが少ないので、その中でどういうバランスで撮影されたのかは気になりました。
赤木 「kearny」は、メガネが見えなくてもメガネを想像して、それがいいってお客さんが集まるブランドなんだって(笑)
服部 でも、実際にはあまり着地を考えずに撮ったんじゃない?
熊谷 ロケハンで行った時は、メガネのカットを撮影することを前提に考えていたと思うんだけど、自分も含めてその意識はどんどん薄れていって、いい作品にするにはメガネがない方がいいってなったんだよね。無理があるじゃないですか、メガネを映り込ませるということ自体が。
赤木 多分、みんな最初からうっすら思ってはいたんだけど、実際に撮影を始めたらやっぱりそうだねって思っちゃったんだよね。
服部 しょうがないよ。メガネいらないんだもん。
赤木 前半は怒られたのよ。メガネいらないって言ったら、服部くんに。なのに後半は服部くんがいらないって言ってたもんね。
服部 さすがに撮る前からメガネいらないって言うのはおかしいじゃん。メガネも撮影したうえでもう撮れてるから大丈夫じゃないってこと。映像も1カット振り返りのシーンが入ってるけど、これがなかったら本当にメガネ関係ないよこれって思った。
熊谷 映像もメガネがどんと映るカットは一個もないからね。振り返った時のシルエットでメガネが映るだけ。贅沢ですよね。
— だからこそ背景が伝わるというか、モノとしてのメガネを見せることにだけこだわっていないというところなのかな。それはお店作りにも通じてますよね。メガネを主役にしたくないという。
赤木 そこはやっぱり富士喜くんのニッチさと上品さだと思うよ。「kearny」のお客さんって富士喜くんのそういう人柄に共感している人たちが多いから、お客さんのコミュニティの中ではこのメガネのうつらないムービーのニッチさを共有することができるのかなって。
熊谷 確かにそうですね。なんか今回で僕も吹っ切れましたね。メガネそんな撮らなくてもいいかなって。
服部 極端な話、これだけメガネブランドがある中でメガネのビジュアルって何かって言われたら結局メガネをかけてる顔でしかないじゃん。どこも。イメージ優先でやって行かないとブランディングは伝わらないよね。
赤木 そうそう。まあ富士喜くんはやりたいこともあるし、こっちの提案を許容するような器もあるから。それでずっとやってるよね。
服部 意外と男気系だよね。メガネの撮影なのに、メガネ映らないって何に対してお金払ってるのって、普通はなるじゃん。
赤木 それはそれで当たり前なんだけどね。佐渡はまだ完成じゃなくって、もう一回撮影に行く予定です。
服部 次はもっとメガネ関係ないよね。とにかく佐渡だね。
赤木 次行く時はメガネの補填じゃないけど、見せ方や撮り方を工夫しようかなとは思ってるけど。目的としてはもっと濃くするというか。
服部 濃度を上げる。
赤木 そう。もっとマニアックにしてあげないといけないみたいな感じかもしれない。強くしてあげないと。
— ビジュアルのローンチが楽しみです。では、最後にお二人にとって「kearny」というブランドに対するイメージってありますか?
服部 思い入れないなぁ。
熊谷 持ってくれよ(笑)。
服部 周りにももっとちゃんと「kearny」と向き合ってちゃんと宣伝しろって怒られてる(笑)。
熊谷 こんなに長年やってるのにね。
服部 そのくらいがいいんだよね。別に買いたい人が買えばいいじゃんっていうブランドであって欲しいというか。完全に内部の人間なのに、ずっと他人事かも。ある種、距離感的には。
熊谷 確かに、いい意味で服部色はないかも。
服部 「sost.」はまだ一回も行ったことないからね(笑)。
赤木 それはやばいね。まあでも、「kearny」は富士喜くんそのものだよね。
服部 そうそう、だからないがしろにしてるんだよ。
赤木 そっか。それは筋が通ってるって言えるかもしれないな。昔からの付き合いだからこそね。
熊谷 なんか自分の作っているモノとセットで見てもらえてるのは嬉しいですね。
FASHION STYLIST 服部 昌孝
https://www.masatakahattori.com/
PHOTOGRAPHER 赤木 雄一
<INFORMATION>
2022 Autumn/ Winter collection
Yuichi Akagi Photo Exhibition
“:gravel”
期間:2022年4月12日(火)〜4月17日(日)
場所:TRUNK(HOTEL)
住所:東京都渋谷区神宮前5-31 1F
時間:10:00~20:00
写真:Takahiro Kihara
文:市谷未希子
コメント
コメントを投稿