kearny のクリエイティブを彩る音楽のはなし。— 前編 —

kearny のクリエイティブを彩る音楽のはなし。— 前編 —



「sost.」のオーナーであり、「kearny」のデザイナーの熊谷富士喜とブランドの映像作品などの音楽を担当した音楽家のTAIHEIさんをお迎えして、二人の出会いから「kearny」のクリエイティブに関する音作りへのアプローチまで、ここだけの話を対談形式でお届けします。


長い顔見知り期間から、コラボレーションに至るまで

— まずはTAIHEIさんの自己紹介からお願いします。

TAIHEI 櫻打泰平です。Suchmos(サチモス)と賽(SAI)というバンドで鍵盤をやっています。

— お二人は共通の友人を通して数年前からお知り合いだったとか?

熊谷 僕はもう前から個人的にただただ好きなバンドだから、ファンとして(笑)。友人の繋がりで他のメンバーとは交流があったけど、TAIHEIとちゃんと話したのは、コロナが流行り出す直前の祐天寺にある美容室「EDIE」がオープンした時だったかな?

TAIHEI そうそう。お互いにずっと認識はしていたんですけどね。

— そこからどういった流れで「kearny」のクリエイティブに関わるようになったのでしょうか?

TAIHEI たしか、横浜にある「スリーマティーニ」というバーに二人で行った時じゃないですかね。

熊谷 そうだ!ちょうどコロナが流行りだして、展示会もできないし何か映像を作りたいなと思っていた時だったんだ。そこで友人からTAIHEIを勧めてもらって、「スリーマティーニ」で相談してみたら快く引き受けてくれたんだよね。

TAIHEI ちょうどSuchmosが活動休止する話が出始めていた時期だったので、その間に劇伴とか映像作品に音をつける仕事とかをしてみたいなと漠然と考えていて。この話が来たときに、「これは最高だぞ」と思ったんです

熊谷 本当にタイミングが良かったんだろうね。Suchmosが忙しい時だったら僕もお願いできなかったと思うし。

TAIHEI そうですね。浜スタライブの前だったら多分無理でしたね(笑)。




I'm Old FashionedのYoutubeはこちら
↓↓↓

「I'm Old Fashioned」を通してみれる音作りの変化

— では、これまで一緒に作ってこられたクリエイティブについて教えてください。

熊谷 一番最初は「I'm Old Fashioned」という7つのストーリーと総集編からなる合計8本の動画シリーズ。それぞれの動画に合わせて全部音を変えてもらったので、全部で8曲かな。すごく贅沢ですよね。

TAIHEI 最初から長尺のショートフィルムをお願いされていたとしたら、きっと尻込みしていたと思うんですけど、これは1本2、3分の動画。しかも、それぞれの映像に主人公となる被写体がいて、人間性や生活スタイルがしっかり伝わってくるものだったので、自然と違う音楽を作ることになりました。同じ曲を使いまわすのはあまりクリエイティブじゃないなと思ったし、自分にとってもいい経験を積ませてもらえたと思っています。

熊谷 「I'm Old Fashioned」のプロジェクトとして一年半くらいかけてじっくり進めていって、「スリーマティーニ」でライブイベントをやったりとあの頃は常に連絡を取り合っていた気がします。カメラの赤木さんも僕もTAIHEIも、全員が初めてやるようなプロジェクトだったこともあり、手探りで一番いい形にするにはどうしたらいいのかというのはずっと一緒に考えてきました。

TAIHEI 1本目の時から一番最後の映像までの間で、明らかに録音能力が格段に上がっているんですよね。最初の頃のものは70年代っぽい音で、それはそれでいいんですけど、回を重ねるごとにどんどんアップデートしていって…。

熊谷 確実に機材がどんどん増えていったよね。そういう音の変化も感じ取れるから面白いですよね。

TAIHEI 中でも、チェロを入れた曲はちょっと後悔しています。出来上がりは最高なんですけど、ピアノだったらワンテイクで録れるのに、チェロは300テイク以上やり直してるので(笑)。普通はパソコンのソフトで作ったりすることもあると思うんですけど、今回は絶対に生音だけで作りきりたくて。真剣に何回もテイクを重ねました。

熊谷 TAIHEIにとってもあの曲はチェロの演奏を初めて音源化したものになったんじゃない?その少し前に、チェロを買ったと言っていて、その時はまだこれからだから全然弾けないって言っていたけど、思っていたよりも早く出番が来て。あのチェロ今じゃない?って(笑)。

TAIHEI そうそう。俺もそれは感じていたので、「やるかー!」と何百回もギコギコ弾きました。

熊谷 今回、佐渡のフィルムでもチェロめちゃくちゃ入ってるよね。いいスパイスになってる。

TAIHEI 佐渡は50テイクくらいです。自宅のスタジオにこもってひたすらギコギコやってました。

熊谷 50テイクも相当だよ(笑)。でも、そのギコギコが本当にかっこいいんですよ。







コミュニケーションが鍵となった佐渡の音

— 最新の佐渡で撮影したショートフィルムですね。今回の音作りについてこだわりを教えてください。

TAIHEI 佐渡の動画のために3曲作りました。最初はトランペット単体で、映像に出てくる踊り子さんを主役にちょっと情緒的な感じで。次は伝統芸能の鬼太鼓にフォーカスを当てて民族音楽のような音に。そして、最終的に今のものになりました。

— 主役を変えることで音のイメージも大きく変わりますよね。どういう部分が大変でしたか?

TAIHEI 島の文化が主人公となった時に、僕は佐渡に行ったことがなかったのでそこが一番ネックでした。映像から受ける印象と、富士喜さんと赤木さんが島から感じ取った印象が全然違って、そのすり合わせが一番大変でしたね。

— 最終的にどのようにすり合わせていかれたのですか?

TAIHEI 映像から受ける印象だけで音を作るのをやめて、とにかく二人とコミュニケーションをたくさん取るようにしました。二人が島で受けた印象をヒアリングしたものを主軸に作り直して。それが最終的に雛形となりました。

熊谷 曲を作ってもらうときは映像を何個か送って、あとは写真やキーワードみたいなものを伝えるようにしているんだけど、佐渡に関してはやっぱり情報量が少なくって。映像と曲のイメージを時間をかけてすり合わせて、やっと出たのが今回の曲だったんだよね。

TAIHEI 二人とも「これだ!」って反応をもらえたのでほっとしました。

熊谷 実際に佐渡に行ったメンバーは、島に対して怖さや狂気的な何かを感じた部分があって。そこをもっと音に反映させたほうが合うんじゃないかというところで何度も話し合いました。

TAIHEI 二人から聞いた細かいニュアンスを音に込めています。例えば、全体的に打ち込みっぽい感じでバランスの統制が取れた曲なので、ちょっと人間性のようなものが荒々しく出たほうがいいかなと思って、チェロの音をあえて粗いままにしたり。あまり上手く弾きすぎない方がいいのかなって。ビートに合っていないんですよね、大太鼓とかも。何拍子かあえて分からないようにしています。

熊谷 そうだったんだ。

TAIHEI 大太鼓の入るタイミングで映像を切り替えてくれていると思うんですけど、あの音で問答無用にストーリーが変わっていくのがいいなと思って、あえて変なタイミングで入れるようにしているんです。

熊谷 確かにあの太鼓だけ独立しているよね。もう一回ちゃんと聴いてみるね(笑)。

まだまだ続く「kearny」クリエイティブのウラ話。後編へ続きます!


2022/8/24リリース

1st Single
「ほとり」
通称’白盤'(3人の音だけのプロジェクト)

2nd Single
「JAPAN THREE feat.澤村一平」
通称’黒盤'(3人の楽器以外のアーティスト、楽器も制限なく取り入れるプロジェクト)





MUSICIAN:櫻打泰平

https://www.instagram.com/taihei0704/

写真:赤木 雄一

文:市谷未希子



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