kearny のクリエイティブを彩る音楽のはなし。— 後編 —

kearny のクリエイティブを彩る音楽のはなし。— 後編 —



「sost.」のオーナーであり、「kearny」のデザイナーの熊谷富士喜とブランドの映像作品などの音楽を担当した音楽家のTAIHEIさんをお迎えして、「kearny」のクリエイティブの面白さから「sost.」の名前の由来まで、ここだけの話を対談形式でお届けします。



「kearny」をきっかけに広がった映像音楽の世界


— TAIHEIさんからみて、「kearny」のクリエイティブの面白さはどういうところだと思いますか?


TAIHEI まず、「kearny」のクリエイティブなのにメガネにフォーカスが当たっていないのが面白いですよね。「I'm Old Fashioned」もそうですけど、こういうメガネを作っていますというメッセージではなくて、「kearny」のメガネをかけている人がこういう生活をしていますというショートフィルムになっている。その感じがなんか、ジム・ジャームッシュの映画みたいだなと思っています。触りどころはないけれど、気がついたら観ている側の想像力が掻き立てられて、最終的にこの人メガネ似合うなとか、「kearny」のメガネってかっこいいなという印象が残るというか。ショートフィルムのひとつ奥のところにそのイメージが隠れているんです。


— 確かに、プロモーション感はないのに観終わってから自然とプロダクトに惹かれてしまいますね。


TAIHEI そうそう。俺からしたら映画音楽を作らせてもらっているような感覚で。実際に「kearny」のクリエイティブがきっかけで映像の楽曲制作や劇伴など、いろんな案件が来るようになりました。


熊谷 そうなんだ!それは嬉しいね。


TAIHEI シーンごとに登場人物それぞれの感情に焦点を当てたり、切り替えていく判断が「kearny」の経験のおかげでできるようになった気がする。あと、演技とカメラワークと映像の切り替えのテンポ、人の動きとかのテンポ感に曲のテンポを合わせることが一番大切なんだなということも「kearny」で勉強させてもらいました。





「kearny」クリエイティブチームの魅力


— これまで色々とコラボレーションをされてきて、お二人が互いに共感する部分はどういうところだと思いますか?


TAIHEI 制作に対してすごくピュア。自分の専門とするクリエイティブに対して純度が高いと思うところですかね。空気感はゆるくやっているんですけど、餅は餅屋ということをお互いに理解しているというか…。


熊谷 確かにね、みんな違うから専門分野が。いいものを作ろうという方向性がそれぞれにある中でも一緒の方向を向けているという感覚はあって。もちろん大人だし、お仕事という意識はあるけど、売れるものを作るというようなマインドがそもそも全然強くないというのかな。


TAIHEI ちゃんと強くあるんですけど、全く表面に出ていないんですよ。それぞれの領分でやればいいという共通認識があるというか。


熊谷 言葉に出ないよね。そういうのが。とにかく、この作品をいいものにしようという気持ちだけで進んでいく感じがすごく心地よいというか、やりやすい部分があって。それが波長が合うということなのかもしれません。


TAIHEI 一番年下の俺がいうのもなんですけど、クリエイティブの目指す方向に向かって行くことに対して互いに全く気を遣ってないという。それって大人になればなるほどなかなかできないことなので、すごいことだと思います。


— 妥協せずに解決するまでコミュニケーションをし続けるということですね。


熊谷 そう思うと毎回すごい喋ってるよね。


TAIHEI 「これは92点まではきてるけど、150点ではない」みたいな。お互いに対して遠慮なく求め続ける感じです。


熊谷 曲を作ってもらっている期間は、夜に電話することが多くて。電話越しに弾いてくれるんですよ。もともとただのファンの俺からしたらめちゃくちゃ贅沢だよね。シンセの種類別とかで「この辺いいですよね」とか言いながら聴かせてくれて、俺も素人ながらに、これがいいとか、これじゃないとか感覚的な反応ができる。素人に対しても分かりやすく、優しくヒアリングしてくれて、絞り込みしていく段階からとても丁寧にやってくれた印象があります。


TAIHEI このプロジェクトはあくまで「kearny」が主役じゃないですか。この作品で「kearny」がどんと出て、周りの空気感を音楽が彩るためには、色合いや時代感、匂いや湿度といった要素一つひとつを音色としてすり合わせていく作業が大切なので、そこは特に丁寧にやりました。





「sost.」の名付け親?初公開となる店名の由来


— TAIHEIさんが思う「kearny」というブランドに対してのイメージはいかがですか?


TAIHEI 俺、鬼の「kearny」ユーザーなんです。本当に毎日かけていて、「kearny」のメガネって、一個手に入れちゃうと本当に他のメガネがかけられなくなっちゃうんですよね。ノンストレスというか、日本人にしっくりくる。だから、最近はかけなくなったサングラスを友達や後輩にあげまくってるくらい。「sost.」ができるまでもずっと見ているし、むしろ直営店がなかったんだって驚きました。


熊谷 しかもTAIHEIは「sost.」の名付け親だよね。


— え、そうなんですか?「sost.」の由来はどこからきているんですか?


TAIHEI クラシック音楽でよく使われる「sostenuto(ソステヌート)」という音楽用語からきています。


熊谷 もともとは「tenuto(テヌート)」という名前にしようと思っていたんだけど、それはあまり良くないかもしれないとアドバイスをくれて。


TAIHEI 「tenuto」って、音を保つという意味を持つ音楽的には重要な用語なんですけど、語源をたどると押さえつけるとか、少し陰なイメージもあるんです。初の路面店の名前にするには、世界に広げていきたいという印象よりは、現状を維持して好きなことをこれからもやって行くみたいな空気感が言葉としてあるような気がして…。


熊谷 「sostenuto」になると複数形になるんだよね。楽器単体に対するものが「tenuto」だとしたら、「sostenuto」はみんなでという意味になるから、印象が全然違うんだなと。


TAIHEI そっちの方が「kearny」が大事にしているクリエイティブのピュアな部分をみんなで保持し続けていくというムードにも合っているのかなって思ったんです。


— 「sost.」という表記は造語ですか?


TAIHEI 「sost.」は「sostenuto」の略語です。楽譜に書くときに長いので省略して書かれています。


熊谷 ただそれをみんな「ソスト」とは読まないから、結果的には造語になっているんだけどね。調べたら他の単語にもない読み方だからオリジナリティもあって良かったなって思ってます。


— 音楽以外でも「kearny」のキーマンじゃないですか!


熊谷 そうなんです。そのアドバイスがなかったら直営店の名前は決まっていなかったかもしれない。


TAIHEI 俺は「kearny」の一ファンでありユーザーですけど、ここまで関わらせてもらっていると客観的な目線があまり持てないかもしれないですね。心としてはもう完全に内側にいるので。勝手に自分ごと化しちゃってる。


熊谷 でも、それはこっちも一緒かも。新しいバンドの活動とかもそうだし、一つひとつのニュースがすごい自分のことのように嬉しくなるんですよね。


— では最後に、TAIHEIさんのこれからの活動について教えてください。


TAIHEI 実は色々と年末にかけて仕掛けているんですけど、どれもまだ発表できなくって…。今はまだ乞うご期待としか言えないんです。あ、一つだけ告知できるのは、音楽を担当したドラマ『拾われた男(NHK)』がディズニープラスで絶賛配信中です!


熊谷 すごい豪華なドラマだよね。これからのTAIHEIの活躍がとても楽しみです。


TAIHEI 本当に俺の映像音楽や劇伴といったキャリアのスタートは「kearny」なので。また俺でよければ使ってください。腕あげときますんで(笑)。




MUSICIAN:櫻打泰平

https://www.instagram.com/taihei0704/




kearny movie -gravel- sado island


写真:赤木 雄一


文:市谷未希子















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